

本稿は、対談の内容の一部を読みやすく加筆・修正したものです。
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1972年、秋田市生まれ。秋田高校、青山学院大学法学部卒。外資系経営コンサルティング会社勤務、英国留学、秋田市議会議員などを経て、秋田県議会議員1期目。2005年に帰郷以来、市民協働で社会起業に取り組む。
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1957年、秋田市生まれ。秋田南高校、成蹊大学法学部卒。秋田市議会議員、秋田県議会議員を経て、2009年から4期、秋田市長を務める。市内を襲った豪雨災害で陣頭指揮を取り、モデルケースとして全国の自治体から注目を集める。
穂積 当初は、外旭川エリアにイオンを中心とした民間の開発と、卸売市場の余剰地等を活用したスタジアムを検討していました。市内外から足を運ぶ皆さんも、さまざまなスタイルで楽しむことができ、にぎわいや交流が生まれるのではないかとの考えからです。その後、残念ながら当地に造るにはどうしても時間がかかり、Jリーグの理解を得られづらく、ライセンスの交付も難しいことになりました。また、J1リーグの収容規模は、当初は1万5000人が条件だったところ、5000人でもいいように変わりました。それなら八橋エリアで現実的に進めることができるため、同エリアに決めたという経緯があります。
武内 これまで実績を積み重ねてきたサッカーチーム「ブラウブリッツ秋田」の盛り上がる機運を止めさせないとの思いがあると思います。
穂積 15年頑張ってきたチームですからね。サッカーのブラウブリッツもバスケのノーザンハピネッツも。これはスポーツに限らずですが、私たちは、若い皆さんがやりたい、自分たちでまちおこしして地域を元気にしていこうという思いを推したいんです。これをボツにしたら、若い皆さんは「秋田では何をやってもだめだ」「秋田でやる必要ない」と、自分たちでまちを良くしていこうという意気込み、機運さえ削いでしまうことになります。私は、それを一番危険なことだと思っています。みんなでやって、失敗はあるかもしれないが、みんなで応援していきたい。若い人たちが「秋田でもやっていけるんだ」「物事は進んでいくんだ」という成功体験を積み重ねていくことで、みんなで秋田を盛り上げられます。これからは若い人たちの時代なんだから、そのような思いを摘んでしまってはいけないとの思いがあるんです。
武内 将来の秋田にとって、とても大きな可能性を秘めているスポーツチームがあって、これを応援している皆さんの思いは止めてしまってはいけないですね。市長がおっしゃる「スタジアムを作るまでは死んでも死にきれない」という思いですね(笑)。
穂積 スタジアムの建設について、18万人もの署名の重みを感じています。きちんと市民の皆さんと約束したことは実行したいんです。この思いは、県にも通じたのだろうと思っています。
武内 私が住んでいたイギリスのまちは30万都市でした。そこに7万人を収容するスタジアムがあったんです。日本におけるJ2ランクのチームでしたが、応援の強さ、街を愛するシビックプライドは、リーグの中でもトップクラスでした。試合のある日は、街中がチームカラーのブルーに染まるんです。たくさんの人々が集まり、大きな経済効果が得られることを体感しているので、秋田市もそのようなまちになってもらいたいと思っています。ぜひとも頑張りましょう!
穂積 頑張りましょう!(握手)
武内 ところで、穂積市長は、スタジアムを新築するという話で提案していますが、一方で、隣接する球戯場「ASPスタジアム」の改修でいいのではとの意見もあります。
穂積 ASPスタジアムの改修について、新スタジアムについは、新しく造るのではなく、ASPスタジアムの改修をまずは検討すべきという意見もありますが、皆さんに正しい情報をお伝えしたいと思います。
まず一つ目として、平成24年度に秋田県が、県内の主要な陸上競技場と球技場を改修して、Jリーグ基準を満たすスタジアムを整備できないか調査(平成24年度の「魅力あるスタジアム整備調査事業」)しています。その際、ASPスタジアムについては、敷地の北側が民家と接しており、騒音や照明、日照権の問題が発生する可能性があるため、第2球技場と健康広場に新スタジアムを建設することが望ましいと提案されています。
二つ目として、ASPスタジアムの敷地面の問題です。基準が緩和された入場可能数5,000人のスタジアムを整備するためには、約1万8,000平方メートルの広さの土地が必要ですが、ASPスタジアムの面積 は約1万6,500平方めーとるしかないため、敷地を拡張する必要があります。しかしながら、ASPスタジアムの敷地には、東西南北の四方に大口径の幹線を含む上下水道管が埋設されており、それらを移設する場合は、工期が最短でも 6年はかかり、膨大な費用(少なくとも50~60億円)が必要であり、市民生活にも甚大な影響を及ぼすことになります。
そして、三つ目に「ブラウブリッツ秋田」のクラブライセンスの問題があります。3月14日に開催された新スタジアム整備協議会において、ブラウブリッツ秋田の加藤専務が、Jリーグ・クラブライセンス事務局の大城マネージャーに 対して、「仮に、ASPスタジアムの改修を検討することとした場合、ライセンス交付に影響はあるか」を確認しています。Jリーグからは「何年も前から、新スタジアム整備という条件の特例でライセンスが交付されている。今さら、ASPスタジアムの改修を検討するということは、今までの説明と大きく異なっており、非常にネガティブである。検討に時間 がかかり、スケジュールに遅れが出るとなると、クラブライセンスの判定上は厳しくなってくる可能性がある」と言われています。
これらの理由から、ASPスタジアムを改修する場合は、第2球技場と健康 広場にスタジアムを新設するよりも、間違いなくスケジュールが遅れることになり、ブラウブリッツ秋田にライセンスが交付されなくなることを大変危惧しています。皆さんには、ぜひこうした正しい情報をもとに、判断をしていただきたいと思います。
武内 予算、スケジュールなどを総合的に考えて、新築で進められているとのことですね。民設ではなく公設とすることで、国からさまざまな補助金をもらいやすくなりますね。
穂積 同エリアは都市公園です。金沢市なども都市公園内に造りました。園内に防災機能を入れ込むなどすることで、国から補助金を得られます。90億円のうち40数億円になります。行政負担、自治体の負担を下げることができます。確かに建築コストは上がっていますが、有利な財源を獲得していくことができると思っています。
武内 公設とすると、防災機能のほかにも複合化できないかと考えています。サンライフのような高齢者スポーツ施設の機能を含めたり、子どもが遊ぶ室内広場を併設したり、日常的に使う人を増やすことができるスタジアムになれれば、より公共性を高めたものが作れるのではないでしょうか。
穂積 どのようなスタジアムにしていこうかということは、さまざまな立場の皆さんの意見を聞きながら、これからの議論になると思います。夢を語らずして最初からだめだということはありませんが、一方で、財源が必要なことでもあるので、どう折り合いをつけていくのかの議論を深めたいですね。
武内 北広島市のエスコンフィールド、一昨年、視察してきました。素晴らしいところは、4年ごとに20年先まで計画にフェーズを設けたプランを作っていることです。周りに病院ができたり、高齢者マンションができたり、学校ができたり、まちが出来上がっていっています。スタジアムの議論は、造ることがゴールではないと思います。まち自体がどう変わっていくのかは、ワクワクするものだと思っています。まずは、ハードとしてのスタジアム、そして、八橋運動公園がどうなるのか、エリア全体がどうなっていくのかを見越した計画であるべきです。この先にこういうまちをつくっていきますというものを示すことで、投資を呼び込むことも可能です。
穂積 素晴らしいですね。さまざまな意見が寄せられますが、もっと広いエリアで総合的に開発して、さまざまな施設を配置するなどの発想も生まれてきています。行政だけではなく、「こういうまちをつくりたい」「変えていきたい」「こういものがあればいい」など民間の発想によって、都市機能としての魅力アップにつながって、人を呼び込むサイクルができそうですね。
武内 行政としては、このまちのイメージをある程度方向付けて、皆さんに来ていただくことも大事ですね。例えば、秋田は健康都市を実現していくことなど。さらに、飲食店や商店街との連動も求められます。秋田駅から八橋エリアまで歩いて来る人たちの導線上にある川反や寺町、商店街などもコンテンツとして活かすこと。
穂積 800人もの「コンサドーレ札幌」のサポーターが秋田に来られました。会場で話を聞くと、秋田・札幌間の航空便は本数も搭乗人数も少ないため、フェリーを使うなどして、3日前から秋田に滞在してくれる皆さんもいるんですね。秋田駅前の人手もすごかったと聞きました。試合会場には8000人近く入ったそうですから、1万人規模のスタジアムもまんざらなのではないのではないかと改めて思いました。秋田に来た皆さんに楽しんでもらって、秋田を良く思ってもらえるよう、街並みの形成もこれから必要になります。八橋を中心にしながら、川反も含め秋田駅前とどのような導線で回遊性を高めるのか。駅前の秋田市民市場でも飲食店やショップなどを開いてもらえるような機運につなげられればと思っています。
武内 秋田駅前と言えば、昨年、秋田市千秋公園大手門前のお堀に遊歩道ができました。私が市議会議員だった10年ほど前に議会で提案させていただいたことが実現しました。ありがとうございます。公園の周辺には、「秋田市文化創造館」や「あきた芸術劇場ミルハス」があります。今秋には佐竹資料館のリニューアルオープンも予定されています。歩いて楽しいエリアになってきました。
穂積 当時の日赤病院が移転し、16年前ほど前までは、ほとんど空白エリアでした。夜間には歩いている人もほとんどいませんでした。県都の秋田市は秋田の玄関口です。中心市街地がさびれていると、秋田駅に降り立った人が元気のないまちだなと思うでしょう。第一期の中心市街地活性化計画では、「秋田市にぎわい交流館AU」や商業施設、社会福祉施設などを整備しました。第二期の計画では、県と市でミルハスなどの文化施設を、そして、お堀の遊歩道などハードを行政が整備ことで、ウォーカブルなまちになってきました。これらの効果もあり、「与次郎駅伝」「国際ファミリーマラソン」「広小路バザール」などのイベントでにぎわいも生まれました。「千秋花火」はまちなかに人があふれます。自分たちのまちは自分たちで作る、楽しくしていかなければ、という機運が生まれました。市民に気持ちの芽生えが出てきたことに可能性を感じています。若い皆さん、みんな頑張ってくれていることがうれしいです。
武内 今回は、八橋エリアと秋田市中心市街地を中心に「まちづくり」について話をうかがいました。市内にはまだまだたくさんの「ワクワク」ポイントがあり、これからの秋田市に可能性を感じました。穂積市長、ありがとうございました。
穂積 ありがとうございました。
武内 次回は、「人口減対策」について話をうかがいたいと思います。