ワクワクが止まらないまちづくりへ~秋田市~ 第1回「災害対策」


秋田市を拠点に市民協働のまちづくり活動に取り組む秋田県議会議員の武内伸文と、穂積志秋田市長が初めて対談、オンライン動画を公開しました。
本稿は、対談の内容の一部を読みやすく加筆・修正したものです。

対談動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=hZE1Kus5e6Q

武内伸文(たけうちのぶふみ)
https://takeuchi-nobu.com/
1972年、秋田市生まれ。秋田高校、青山学院大学法学部卒。外資系経営コンサルティング会社勤務、英国留学、秋田市議会議員などを経て、秋田県議会議員1期目。2005年に帰郷以来、市民協働で社会起業に取り組む。
秋田市長 穂積志(ほづみもとむ)
https://www.hodumi-m.com/
1957年、秋田市生まれ。秋田南高校、成蹊大学法学部卒。秋田市議会議員、秋田県議会議員を経て、2009年から4期、秋田市長を務める。市内を襲った豪雨災害で陣頭指揮を取り、モデルケースとして全国の自治体から注目を集める。
武内 こんにちは、秋田県議会議員の武内伸文です。私は18年ほど前から秋田市のまちづくりに取り組んできましたが、秋田市のまちづくりのかじ取り役、穂積市長と対談する機会を設けさせていただきました。テーマは「ワクワクが止まらないまちづくりへ」。秋田市のまちづくりの「これまでとこれから」について、さまざまな角度からお話しできればと思います。3回に分けてお送りします。

穂積 みなさん、こんにちは。秋田市長の穂積です。16年間、市長職を務めさせていただきました。これからも、若い人たちと共に、もっともっとワクワクした秋田を作っていきたいとの思いでいます。対談を通して、さまざまな意見をお聞きしながら、そして、実現できるよう頑張っていきたいと思います。

武内 本日はお忙しい中、ありがとうございます。さて、1回目のトピックは「災害」について。地震や豪雨などの災害は、全国的にいつ起きてもおかしくありません。秋田市においても一昨年、大変な豪雨災害があり、6000棟以上が被害を受けました。災害に対する市民の意識も変わってきています。そこで、秋田市の対応状況について教えてください。

穂積 残念ながら、大きな浸水被害に見舞われました。大雨による災害は、この3年間で、秋田市以外にも県南・県北・中央と起きてしまいました。日本列島で災害が激甚化、頻発化しています。これまでとは災害に対する感覚を変えなければならない時代です。
秋田市では、これまでと異なるレベルで河川を改修しています。国の激甚化災害の指定を受け、市と県、国が同じ方向を向いて対応しています。太平川については、広面の桜橋から楢山のイオン秋田中央店前までの護岸の整備に190億円、桜橋から上流の谷内佐渡までの整備に160億の予算計画となっています。
市内の浸水被害で特徴的だったのは、内水氾濫だったことです。中央通りから中通三丁目街区公園(通称・タマゴ公園)、楢山エリアまで、大雨が降ったら貯めることができる直径2.6メートルの水管を埋め込みます。
広面エリアの秋田大学病院の周辺も水はけが悪いんです。拠点となる病院ですので、救急車が入れないようなことでもあれば大変です。周辺に貯水池などを作りたく、令和7年度予算に調査費を入れ込んだところです。外水氾濫や内水氾濫があったとしても、少なくとも床上の浸水被害を免れるよう対応しています。

武内 2023年7月豪雨が秋田市街地で発生した大規模な内水被害を受けて策定した太平川流域の内水被害等軽減対策計画が、全国で初めて国土交通省登録として認められました。これにより、計画を積み上げて、同じような水害があっても90%は被害を減らせるということですね?

穂積 事業費は約420億円に上ります。床下の浸水までは難しいかもしれませんが、床上浸水は90%以上、改良を重ねることで、100%を目指した対策として計画、実行しているところです。

武内 古川流域の対策も、市だけではなくて、県と国との協議会を作った取り組みも全国では初めてとのこと。

穂積 そうですね、行政には管轄がありますので、市は市、県は県、国は国…。でも、住民にとっては、市の河川、県の河川、国の河川と分けられるものではありません。そのため、どうしたら災害のない地域、まちを作れるのかを検討するため、初めて管轄を超えたテーブルも設けることができました。これは、秋田発で全国の模範となるモデルケースとして、高い評価をいただいています。

武内 多くの地域からさまざまな団体の視察があり、秋田市の取り組みを模範とされています。実際に、太平川で起きた水害の際には「水災害対策プロジェクト」として、国・県・市が連携できたからこそ、早急に激甚災害指定を受けられ、追加対策もできました。

穂積 国も責任をもって対応してくれました。国との関係では、どうしても予算の奪い合いになることがあります。そこで、三者が同じ方向を向いて対応することは、予算を獲得するためにも有利なんです。私としても、予算を獲得できるよう国に働きかけています。秋田市の取り組みを国土交通省なども認めてくれました。これらのつながりを生かしながら、よりスピードアップして災害復旧に取り組み、安心・安全なまちづくりを続けます。これができるのは私の強みだと思っています。

武内 表面に出てきづらい下支えやつながりがあるからこそ、対応ができたこともあるわけですね。ところで、災害について考えるとき、災害が起こる前、起こった時、起こった後に分けて検討する必要があると思います。まず、災害が起こる前の防災について、避難所の設営にはTKB(トイレ、キッチン、バス)が必要です。災害を受けて整備は進んでいますか?

穂積 これまでの災害に対する準備は、食品やテント毛布などの備蓄でした。備蓄物は拠点となる避難所などに備えていたのですが、80カ所もの避難所を開設すると、それぞれの避難所に運送・運搬することが大変であることが分かりました。現在は、各地区のコミュニティーセンターなどに小分けして備蓄しています。また、災害が発生時には、市の職員も被災していることがあります。そのような場合に避難所の設営に時間がかかってしまうことのないよう、町内会の皆さんと連携することで、すぐに立ち上げられる仕組みも作りました。また、避難所では女性が危険な目に遭うことも考えられますので、トイレの設置場所を配慮したり、防犯ホイッスルを用意したり、今回の災害を検証して、細部にわたる地域防災計画をこの3月に作りました。市職員が町内会の防災会議などに出向して、市民の皆さんと共有しながら、市民と協働の防災体制を築いていきます。

武内 水害ではありませんが、冬に停電があったとき、民間事業者の電気自動車がコミュニティーセンターに来て支援してくれたことがありました。行政が準備することに加えて、民間と協定を結ぶなどの協力が非常に大事です。市長のもとでもさまざまな協定を結んでいますね。

穂積 公用車の買い替えに合わせて、非常時などに充電できるクルマを少しずつ入れるようにしています。また、行政の対応だけでは限りがありますので、食品を備蓄するスーパーや自動車関連、輸送・運搬の民間事業者などと協定を結び協力体制を築いています。

武内 LPガス協会などもありますね。ところで、実際に災害が起きた場合、避難所に集まったのは何人なのかではなく、どのような人が避難してきているのかが分からないと対応しづらいとの声が、医師会や薬剤師会などから上がっています。一人一人の聞き取りでは迅速に対応しなければならない避難所で時間的ロスが出てしまいます。そこで、マイナンバーカードを使って避難所にチェックインする実証実験が、全国で行われています。時間を10分の1ほどに短縮することができるそうです。

穂積  そうですね、どなたがどこに避難しているのか、また、行方不明者の把握をどうしていくのかなどの体制を構築しなければなりません。マイナンバーカードがあれば、誰がどこに避難しているのかが分かりますね。また、避難時に常用している薬などを持ち出せないこともあります。しかし、自分の飲んでいる薬が何なのかを正確には覚えていないこともあると思います。これらの情報がネットワークで伝達できるのであれば、より細かく迅速に、医師会や薬剤師会、看護協会と命に対する安全のフォローができていくのではと思います。

武内 インシュリンなど緊急性を要する物への対応が大事ですね。また、要支援者が避難できたのかどうかなど、地域で連携すればできることもあります。個人情報の扱いに課題などもありますが、命の方が大事なので進めてもらいたいです。

穂積 要支援者については、本人の内諾をもらいながら進めています。命の問題として、行政から説明していくことも大切ですね。

武内 さて、被災後についてですが、今でも住宅被害が復旧途中の市民もいます。これに対して、国の制度として被災者生活再建支援制度があります。当初は1年以内の対応が必要でしたが、秋田市では期間を延長できるようにしましたね。

穂積  総務省等にかけ合って、延長してもらうことができました。例えば、能登半島地震なども1年以内で再建することなんてできません。このような現実がある災害を経験した私たちの声を政府に聞いてもらって、きちんと現場を把握・検証してもらい、支援の期限を柔軟に対応いただきました。県営・市営住宅、臨時的な住宅などがありますが、限られた期間では再建できない現実があります。

武内 私たちには知らないところ、見えにくいところで、さまざまな対応を取られてきたのだと思います。次いで住民にとって大切なのは、災害が起こった後の不安への対処です。全国から寄せられる物資等の支援のほか、NPOなどは被災者のための心理カウンセリングなどを提供しています。災害ケースマネジメントとして、さまざまなスキルを提供できる皆さんとのつながりを市でも進めています。

穂積 被災した地域での出来事には公になりにくいこともありますね。人的支援などをいざ受け入れるという段階では、被災している中で難しい課題もありますが、社会福祉協議会などと協力しながら充実させていきたいと考えています。マイナカードなど、さまざまなサジェスションをいただきました。武内さんには実現できるよう、ぜひ、協力いただきたいですね。被災した私だからこそ、責任を持って安全・安心を市民の皆さんに提供することが、私の使命です。

武内 さまざまな災害対策について話をうかがい、私たちが知らない、私たちには見えにくい部分での多くの対応・対策が進められていることが分かりました。私たち住民にとって大事なことは、また被災してしまうのではないかとの不安を払拭できることです。私ができることの協力は惜しみません。引き続き、穂積さんには、しっかり対策をお願いしたいと思います。

次回は、これまでとこれからの「まちづくり」について、話をうかがいたいと思います。

第一回 「災害」対策について
第二回 「まちづくり」について
第三回 「人口減対策」について

PAGE TOP